Ⅰ、中間省略登記とは?
かつて不動産登記実務上、不動産の所有権がA→B→Cへと順次移転した際、中間者であるBを省略して直接AからCへ登記名義が移るという中間省略登記が行われていました。なぜこの様な登記をするのかというと「中間者Bを経由するのが手間」、「登記名義をAからCに直接移すことで移転登記の登録免許税を安くしたい」等が理由として挙げられます。
Ⅱ、不動産登記法改正により中間省略は事実上不可能に
しかし、平成17年の不動産登記法改正により原則として「登記原因証明情報」を添付しなければ登記ができなくなりました。
「登記原因証明情報」とは“登記の原因となった事実又は法律行為とこれに基づき現に権利変動が生じたことを証する情報”のことであり、登記官はその情報を基に不動産の権利の経緯を登記記録に記載することになります。
つまり、A→B→Cという売買の場合ですと、Aは不動産を直接Cに売ったわけではないため①A→B②B→Cの2つの売買による移転登記が必要となり、登記記録にも同様に記載されます。なぜならAから不動産を買ったときに一度Bが所有権を取得し、その後BがCへ売却しているため、不動産登記法上その経緯を記録する必要があるからです。
よって、現在では、A→B→Cへと順次移転した際、中間者であるBを省略して直接AからCへ登記名義が移るという中間省略登記をすることができなくなりました。
Ⅲ、中間省略登記に代わるもの
Ⅱでご説明しましたとおり、現在では原則として中間省略登記ができなくなりました。
ではA→B→Cへと売買が行われた際にAから直接Cに名義を移す方法は無いのかというのが課題となります。
そもそも、なぜAからCに直接移転ができないのかといいますと、一度Bが所有権を取得しているためです。Bが一度所有権を取得している以上これを記録に記載する必要があるため直接Cへ移すことができません。
では、逆にBは一度も所有権を取得せず、BからAに売買代金が支払われた時は所有権は直接Cに移転するという旨の契約ならば、AからCへと直接移転することができるのではないかということになります。
その様な方法が法律上認められるのかというと「第三者のためにする契約」という制度を用いることによって可能となります。これが中間省略登記に代わる新たな直接移転方法となります。
Ⅳ、第三者のためにする契約
(第三者のためにする契約)
民法 第五百三十七条
契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
こちらは第三者のためにする契約が規定されております民法第537条の条文になります。
この条文を売買に当てはめると以下の通りになります。
①AB間で不動産売買契約を締結、なお、その契約にはBからAに売買代金が支払われたときにBが指定する第三者に所有権がAから直接移転する旨の特約があります。
②Bは第三者としてCを指定し、CはAに対し、自分が直接所有権の移転を受ける旨の意思表示をする。
③決済当日、BからAに売買代金が支払われることによってAから直接Cに所有権が移転することになります。
この様に第三者のためにする契約という制度を活用することによって直接、AからCへ移転することが可能になります。
Ⅴ、第三者のためにする契約のデメリット
第三者のためにする契約を活用することによって中間省略登記に代わり直接移転ができます。しかしこの制度にもデメリットはございます。
一つ目は所有権に関してはAから直接Cへ移転していますが、売買代金はCからBへ入金後、BからAへ支払われるためBが売買代金を一旦立て替えている場合を除いて通常の決済よりもお金の流れが煩雑になることが考えられます。また着金確認も長時間に及ぶ可能性が考えられます。
二つ目は①AB間②BC間の決済が同日に行われなかった場合、所有権がAのままであるため別の登記が入ってしまうリスクがあります。
三つ目は上記の様に通常の移転よりも複雑で、かつ、煩雑になるためCへ融資をする金融機関によっては直接移転方式を認めていないことがあります。
Ⅵ、まとめ
第三者のためにする契約を活用することによって登記を直接移転する方法が可能になりました、しかし、その反面に通常の移転登記よりも複雑かつ煩雑な手続きになるためトラブルになることも少なくありません。第三者のためにする契約を用いた不動産売買をご検討されている場合は適切な内容の契約を当事者で交わす必要がございます。
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司法書士法人ファミリア
司法書士 中村 和仁
こちらのコラムは業務提携先である愛知宅建サポート株式会社さまからのご依頼でファミリアの司法書士が執筆したものです。
掲載元:空き家管理ポータルサイト
(公社)愛知県宅建協会運営の不動産情報サイト
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